「華やかな香り」のリクエストで生まれたセカンドシーズンの香(現在は完売)。 ブラックの器にはブラック岩塩とクリスタル、そして匂香を。 大茴香や桂皮、ショウガ科の果実を乾燥させたショウズクと言われる香原料などが用いられている。
山田松香木店は薬種業として創業し、香原料に薬種由来の天然素材を使用した香を扱っています。 店内に並ぶのは、現代では貴重になった伽羅・沈⾹といった香木の数々。 これらを絶妙なバランスで組み合わせて調香することで、イメージに合わせた香りが生み出されるのです。 そもそも香の文化は日本でどのようにして広まったのか。 山田松香木店にその歴史について聞きました。
Chaosディレクター櫛部美佐子(以下、櫛部):香りの文化は、仏教伝来と共に日本に伝えられたと聞いています。 その昔、香りはどのようにして日本の人々の暮らしに取り込まれるようになったのでしょうか?
山田松香木店:飛鳥・奈良時代まで遡ると、香りを扱う場面は宗教色の強いものでした。 当時は杉・檜・榊など⽊を凝縮した⾃然そのままの⾹りでしたが、仏教伝来とともに「⾹」の文化が伝わります。 淡路島に漂着した香木は、その場や人の心を清めるものとして使われてきました。 初めは佛前への供香として広まり、平安時代には練香が流行。 「薫物(たきもの)」として公家の人々が自分の香りを調香し、衣や部屋に香りを移して楽しんでいたと言われています。 場を清め、精神を深めるという考えはこの頃から私たちに根差しているものなのですね。 さらに香木の香りを聞く、“聞香(もんこう)”の文化が生まれたのは戦国時代で、武士が精神を落ち着かせるための嗜みでした。 そこから“香道”として体系化していったのは、東山文化のころだと言われています。 時代が移り変わるにつれて香りの楽しみ方は変化してきました。
櫛部:山田松香木店に惹かれた理由の一つは、その歴史の長さです。 江戸時代に「薬種商」として創業したそうですね。
山田松香木店:お香の原料となる天然香料の多くは「薬種」として漢方に使用されるものです。 店内にある薬棚に象徴されるように、山田松香木店は江戸・享保年間に薬種業を始めました。 本店を構えるのは、平安時代には近衛大路と呼ばれ公家が暮らしていた場所、つまり香り文化の発祥の地とも言える京都の御所西です。 薬種の中でも特に貴重な香木を中心に扱ってきた私たちには、その香原料と香りの文化を次世代へと受け継いでいく使命があると考えています。
櫛部:私も暮らしに香りがある豊かさを感じ、初めにアロマテラピーに興味を持って精油の勉強をしていました。 気分や季節、部屋によってムードを変えるために重宝しています。 香りについて学んでいくうちに日本の暮らしに馴染みが深い香の文化に辿り着き、発祥の地である京都で誕生した山田松香木店を知ったんです。 真摯に香りに向き合うその姿勢に感銘を受け、天然の材料へのこだわりはChaosの物作りとも共鳴するものを感じています。 天然の材料にこだわっているのはどうしてですか?
山田松香木店:天然香料の香りは唯一無二のものです。 また香りを嗅ぐことで粒子が体に入ってきますので、安全で安心なものを作りたいという思いもございます。 香木は有限な自然の資源。 現代では貴重となった香原料もいくつかありますが、山田松香木店では後世に受け継いでいくために大切に保存してあります。